長い冬の寒さの後、初めて春の暖かさを感じられる朝。
軟らかい日差しにこのまま暖かい日が続くのではないかと心が色めき立つ。
春らしい淡い期待も空しく、再びその午後には肌寒さが音もなく忍び寄る。
冷酷な冷気が漂う午後。
時折、忙しい荷物配達の車が往来する何気ないアスファルトの路上。
行く先の足元の何かに突然違和感を感じ立ち止まる。
置物の様に動かない拳ほどの大きさの何かがそこに佇んでいた。
拳ほどの大きさの生き物が2匹揃って移動中のポーズのまま動かない。
朝の春っぽい陽気に騙されて冬の眠りからやっと覚めたばかりだったのだろう。
冬眠から覚めた初の活動のために眠い体を引きずりながらゆっくりと移動し始めたところだったのかもしれない。
車の往来する路上を横断中にもかかわらず、午後の突然の想定外の寒さに当たり、移動中のポーズのまま体が動かなくなってしまったのだろうと直感した。
そのままでは十中八九次来る車に無慈悲にもぺちゃんこにされてしまうと危惧したが、前後の安全を確認してからちょっと1-2枚だけ写真を撮る間を許してもらった。
アングルを調整する間もままならぬほどの瞬時にシャッターを切り終えると、立ち去る前にすぐに道路脇の安全地帯に移動してもらうという緊急任務に無事成功することができた。
それでも2匹の冷えた体はほぼ動けない様子だった。
このまま生き残り、永い眠りの間に夢見ていただろう本物の春を謳歌してくれるだろうか。
過ぎ去りざまにふと振り返った瞬間、見ることも叶わぬ2匹の未来に思いを馳せた。