ノスタルジック, 今日のいい写真, 写真を語る試み

アメリカンルール#1

indian restaurant
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シカゴ市街北部に夜9時待ち合わせ。本格インドカレーを食べる会。

まだ慣れていない街で見知らぬ地域。なんだか危険な予感がした。

そこは、インド人街のど真ん中である。





当時、まだ車がなく電車バス移動の超情けない人たちの一員だった。その日は、夕方からCTAに乗り込み、地図を見ながら待ち合わせ場所に通じるバス停の近くの駅で下車し、バス停に向かった。

バス停で待つ。外は冬の冷たい風が吹きすさぶ。だが、待てど暮らせどバスは来ない。

だんだん待ち合わせの時間が迫ってくる。そこで、毛皮付きのフードを深くかぶり、隣のバス停までとりあえず歩いてみることにした。

しばらく歩き、少し離れた次のバス停につきバスを待つ。冷たい風が吹きすさぶ。だが、全然バスは来ない。

寒さを紛らわせるためもう少し歩くことにした。シカゴの地図は距離感が全然わからないことはさっき歩いたことで経験済みだったはずが、寒さにやられたのか、まだまだいけると思い次へ次へと歩いて行った。

もうどれくらい歩いただろうか。まだまだ目的地があるインド人街にもたどり着かない。

途中、赤信号で止まってると、突然、”I have a question!”とアブなめ良好のインド系の人物が話しかけてきた。無視して進んだ。気づくとそんなアブなめの人物がちらほらいる以外はこの夜道には人気がない。見渡すと荒涼とした雰囲気。

人気がなく荒涼としていて、危険を感じるところは、だいたい危ないものであるとよく言うが正にその雰囲気であった。

少し警戒心を高めて歩きながら、ふと通りの脇に目を向けると、なにやら周りの様子を伺いながら駐車してある車に近づいていく人物がいた。そこは、もうインド人街なのか、それとも期待的な何かなのか、それとも、被害妄想的な何かなのか、もうこの頃には周りにいる人の顔立ちは皆インド系に見えた。インドでの経験がいろいろと脳裏をよぎる。そして、その人物はおもむろに定規状の鉄の棒を持ち出し、運転席側のガラスの脇にガシガシと突っ込み始めた。

車関連の経験から言うと、あれは、車の中にキーを残し鍵をかけてしまうインキーをしてしまった際に、定規状の専用の工具を使い車の鍵を開ける作業のしぐさに非常に似ている。というか、車を盗んでいるに違いなかった。横目で見ているとその人物の視線がこちらに向かってきたので、急いで目をそらし足を速めた。彼はそのまま作業を続けていた。

その後も何度か”I have a question!”と人が寄ってきた。なぜか同じ問いかけだった。がんばって無視&GO!を決め込んだ。あの危険な雰囲気の中では、その問いに答えたらその先に望まざる世界があることは間違いないと感じていた。

と妄想を膨らませながら歩いていたが、結局、バスは一向に来る気配がなかった。気が遠くなるほど歩いていると、インド系のグロッサリーなどのイルミネーションが見え始め、繁盛している通りに差し掛かってきた。

インド系の人たちは、夜が遅いのか、スパイスの香り漂う街でグロッサリーや電気店、レストランなど結構な人がショッピングや食事を楽しんでいた。通りにもたくさんの人が楽しそうに歩いていた。

待ち合わせ場所についたころには、すでに待ち合わせの時間を大幅に過ぎていた。そして、インドカレーのレストランへ行き、この小冒険の話をしながら食べ放題の本格カレーを楽しんだ。

そんな話を聞いたシカゴアンから一言。「アメリカンルール#1 アメリカでは、バスを待て」。アメリカに来てすぐの厳しい(?)アメリカンルールを授かった。まあ、冗談だが楽しい。

当時のシカゴは今ほど安全化が進んでおらず、危険地帯が多く残っていた。その後、一番危険と言われていたサウスサイドを含め急速に安全を感じる街と姿を変えていった。アメリカの本気の力はすごい。

とは言え、世界中どこにいても夜には危険な地帯はさらに危険になる。以前ほどではないにせよまだまだ目的地への途中にも危険な地域があるかもしれない。多少の遅れや寒さよりも、大事なのは、身の安全である。この時無事だったのは、ただのラッキーだったのかもしれない。

いつでも安全を第一に考えてほしい。