湿気を含んだ氷点下の風が容赦なく車を襲う。
車は透明の氷に覆われ、氷の彫刻のようになる。
ドアは氷で固められ、鍵穴も氷で埋まっている。
凍えながら感じる小さな絶望。
ポチっとキーレスエントリーのボタンを押すと鍵は開いてくれるが、氷で固まったドアを開けるのは一苦労。
何とかバリバリとドアを開けて車中に入っても、今度はフロントガラスを厚く覆った透明の手ごわい氷が迎え撃つ。
暫し、フロントガラスの分厚い氷と戦うためのエアコンの暖かい風が出るまで丸まって待機する。
目の前に次々と現れる難問を一つづ着実に紐解いて解決していく。
エスキモーの様に厚いファーがフードに着いたコートに実を潜ませ、車中でも尚白くなる息を眺めながら、ただ静かに待つ。
フロントガラスの氷を何とか処理し、車を走らせると今度はアスファルトを覆った見えない氷が運転のコントロールを奪う。
冷たい困難が連続する過酷な冬の体験。
過酷な冬の体験もその場では必死で切り抜けることだけで精いっぱいで、その瞬間はそれが過酷かどうかさえ考える余地もない。
過酷な冬の体験の記憶は夏の間に姿を変え、苦しみが消え、冬を生き抜いた経験として再び乗り越えられるという前向きの感覚と共にどこか待ち遠しい気にすらなる不思議。
楽しい夏の季節が過ぎ、夏の終わりの頃のイベントの帰り道に涼しい風が吹いてくると短い秋の後にすぐ過酷な冬が来る。
夏が来るまでは夏を待ち、冬が来るまでは冬を待つ。