語る写真の試み

過去の空



清々しく澄み切った夏の青空に真っ白な雲。

鮮やかに辺り一面をオレンジに染める夕焼け。

一面不気味な緑色に荒れた風雨の嵐の曇。

ほんのりと赤く照らされ光に覆われた雪雲。

雲間から一瞬神々しく挿した薄明光線。

空に虹色を飾る珍しい環水平アーク。

小さい窓から必死で見た飛行機を追うように蠢くオーロラ。

楽しかった深夜の漆黒。

心に残る空の表情は限りない。

過去に訪れた地の空はどんな感じだっただろうか。




大陸の広い空がうねる様な雲を湛える。

壮大な曇り空の景色の下で街に向かう道を何もなかったかのように車が急ぐ。

通る時にはさほど気にもしなかった空。

北米シカゴの日常。

何の気もなしに切ったシャッター。

写真を見ていると違う空の雰囲気も脳裏に浮かぶ。


脳裏に浮かぶ景色の空にはパッと浮かぶ印象があるが、じっくりとよく見てみるとどうも掴み処がない。

旅行で一度訪れただけならばその時の天気によるかもしれない。

長く滞在したならばその季節の空かもしれない。

住んでいたならばいろいろな空の表情が脳裏に浮かんでいるのかもしれない。

特別なシチュエーションの瞬間にたまたま見た空かもしれない。

写真にするとその瞬間の空が映っている。

実際はその一瞬前もほんの次の瞬間にも空の表情は違ったかもしれない。

ほんの少し目線が動いただけでも、心の持ち方一つでも、目に映るのは全く違う景色となる。

写真で見ると同じ場所なのにいつも見ていたはずの空の景色とは何だか違うこともある。

その間にも過去の空を想っただけで走馬灯のように脳裏の浮かぶ景色。

写真はその瞬間を捉えるが、心が捉えるのはその瞬間だけではないのかもしれない。